最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)720号 判決 1960年4月21日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人古屋福丘の上告理由第一点について。
原判決(その引用に係る第一審判決)は、その挙示の証拠を綜合し上告人において所論契約解除の申入に同意した事実のなかつた趣旨を認定しておるのであつて、右証拠に照合すれば右のような事実認定は首肯できないことはなく、所論指摘の証人の供述は原判決の措信しないところであり、また甲第一、二号証の各二は必ずしも右認定の支障となるわけのものでもない。所論はひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨選択並びに事実認定を非難するに帰するものであつて採るを得ない。
同第二点について。
原判決は所論合意解約成立の点について判示のような成行の末に解約の合意が成立するに至らなかつたことを認定しておるのであつて、このような場合原審としては右認定の事実以上に所論の点に関し事実関係の釈明を求め審理を進めなければならない筋合があるわけのものでもないから、原判決には所論の違法ありというを得ず、所論は採用できない。
同第三点について。
所論指摘の当事者間に争のない事実があるからといつて、原判示のような場合必ずしも、合意解約の事実を肯定しなければならないわけのものではなく、また所論の点に関し釈明権を行使しなければならない筋合があるわけのものでもない。それ故原判決には所論の違法ありというを得ず、所論も採用できない。
同第四、第五点について。
原判決がその判示のような事実関係の下において、本件売買契約に基いて上告人の負担する債務は判示移転登記の完了した時において、結局履行不能に確定したものとした判断は当裁判所もこれを正当として是認する。そして、右登記の以前に所論のような事実関係があつたからといつて、その事実の発生の時に右債務が履行不能に帰したものとは到底理解することができない。従つて右履行不能の時を標準として本件損害賠償の価額を算定した原判決の判断もまた正当である。
所論は右と異る所見の下に種々論議するものであつて、採るを得ない。
同第六点について。
所論雨宮大正の鑑定が所論の説明を欠いているからといつて、鑑定としての資質に欠けているものとすることはできない(昭和三三年(オ)第六五九号第一小法廷昭和三五年三月一〇日判決参照)。所論はひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨選択並びにこれが自由な評価を非難するに過ぎないものであつて採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)